(2)マルチ商法及びマルチまがい商法の一般的な用法
(1)乙第77号証ないし第80号証、第115号証、第241号証ないし第245号証及び弁論の全趣旨によれば、社会における一般的な用法として、 マルチ商法という用語は、連鎖販売取引とほぼ同様の意味で用いられており、一部ではねずみ講式販売法ともいわれることが認められる。例えば、広辞苑(新村出編、岩波書店発行、第四版)によれば、マルチ商法とは、「商品販売方法の一つ。物品販売業者とその商品を再販売する者が次々に他の者を再販売組織に加盟させて、組織内の地位昇進から得られる利益を餌に商品の購入や取引量の支払いの負担を約束させる形でする商品の販売取引。ねずみ講式販売法とも呼ぱれ、投機性が強く弊書が大きいので法律で厳しく規制。違鎖販売取引」とされているほか、国民生活センター発行の「たしかな目」(乙第241号証、第242号証)及び「くらしの豆知識」(乙第243号証)には、「マルチ商法(連鎮販売取引)」あるいは『連鎖販売取引(マルチ商法)」との表現が数多く用いられていることが認められる。

(2)他方、甲第23号証、第57号証、第58号証の2、2、乙第247号証ないし第262号証、第280号証、第281号証及び弁論の全趣旨によれば、新聞、雑誌等のマスコミにおける連鎖販売取引とマルチ商法という用語の使用方法は、必ずしも統一されていない。

例えば、「ネズミ講(マルチ商法)」(甲第23号証)とするものや、「連鎖販売取引、いわゆるマルチ商法」(乙第281号証)とするものなど、状況や使用される媒体に応じて様々に用いられていることが認められる。

(3)右認定事実によれぱ、マルチ商法という用語の一般的な用法、定義は、一義的なものではないが、前述したその商法自体の持つ特徴やマスコミ等における従来の使用例などから、マルチ商法という用語は、訪問販売法における連鎖販売取引とほぼ同義で使われる一方、悪徳商法あるいは悪質商法という意味を含み、社会的評価を損ねる用法で使用される例もあるなど使用される場所、使用者の主観などに左右される極めて多義的な語であるということができる。したがって、マルチ商法という用語は、法律的な意味においてこれを用いる場合と異なり、必ずしも統一的な意味を含んだ語句とは言い難いからこれを使用する場所、使用する際の前後の文脈などによっては、単に訪問販売法により規制されている連鎖販売取引の意味を超え、悪徳商法と同義であるかのような印象を一般読者に与えることがあるといわざるを得ないそのうえ、「まがい」という用語には、見分けがつかないほどよく似せてあることという意味があり、「まがい物」という語には、似せて作った物、にせものなどの意味があり、マルチまがい商法という用語についてはマルチ商法によく似せてつくられた商法、さらには、マルチ商法についての法的規制を免れるため、マルチ商法に該当しないようにわざとこれに似せてつくられた商法、脱法的にせもの商法という印象を与える面があるといえる。そして、その場合には対象となったものの社会的評価を低下させ名誉を毀損するものであることが明らかである。

(3)以上を前提として、別紙1の1ないし3の各記述部分が原告の信用及び名誉を毀損するかにつき検討する。
(1)本件書籍中において原告の商法がマルチまがい商法であるとする表現部分(別紙1の1ないし3)は、数多く存在し、マルチまがい商法の語句の使用方法等が必ずしも統一されているとはいえないが、甲第1ないし第3号証、乙第280号証の1、2及び被告山岡本人尋間の結果によれぱ、次のとおり認定、判断することができる。
    1. 被告らは、本件書籍中において、マルチ商法という語句の一般的な用法を明確に定義づけてはいないが、少なくとも原告の商法及びディストリビューターの販売活動、勧誘活動は、現行法上の訪問販売法11条の連鎮販売取引の要件を具備せず、法的にはマルチ商法に該当しないものであり、また、マルチまがい商法とは、同法における連鎖販売取引の要件を満たさないが、同種の性質、危険性を有するものであるとしている。
    2. そして、被告らは、本件書籍中において、原告の商法に関して次のとおり記述している。すなわち、原告の商法は、各デイストリビューターに対する独自のボーナスシステムを設けており、多くの製品を販売し、多くの販売員を勧誘すれぱするほど多額の利益(ボーナスポイント)を獲得できる構造となっているために、より上位のデイストリビューターに昇格してより高額の利益を上げようとするデイストリビューター相互間あるいはデイストリビューターと一般消費者との間において、商品の仕入れ、販売等に関して紛争の生じることがあり、その販売、勧誘活動の方法などによつては、マルチ商法と同様の問題点を内在しているということができる。原告は、デイストリビューターの右活動に関し、アムウェイ倫理綱領・行動基準を設けてその指針を示し、一般的な指導を行うほか、各種相談や苦情処理を担当する部署を設けるなどしているが、被告らの取材等によれぱ、これは必ずしも十分なものとはいえず、原告の商法については、なお苦情や不満が多く、内部告発の声も数多く上っている。原告は、自己の商法がこのような問題点を内在し、あるいは紛争を生じさせる構造であることを十分認識しているにもかかわらず、これを公の批判にさらすことなく、多くのディストリビューターを獲得し、ビジネスを拡大し続けている。
    3. 被告らは、右のような観点から、調査資料、元ディストリビューターらからの内部告発及び第三者からの投書などをもとに、原告の商法が持つ問題点や疑問点を指摘し、原告製品の品質についての批判を加え、これによって、原告の商法の実態について広く社会に知らしめ、客観的な評価を受けさせようとの意図の下に、本件書籍を出版、発行したものである。
    4. しかし、被告らは、本件書籍中において、マルチまがい商法の語句を「悪質な連鎖販売取引」あるいは「ねずみ講(式販売法)」などの語句と意識的に関連づけて使用し、これにディストリビューター各人の販売、勧誘活動がマルチ商法と同種の問題点を有していることを加えて論じることで、一般的な用法としてマルチ商法及びマルチまがい商法の語句が持つマイナスの印象を原告商法の特徴として示唆し、さらに、これに原告の経営状態、原告製品に対する批判などの記述を併せて論じることにより、原告の商法に対する強い非難を加えている。

(2)右認定、判断によれば、本件書籍中のマルチまがい商法という用語は、その商法が法令で規制されているマルチ商法とほぼ同様の危険性を有する商法であって、マルチ商法によく似せてつくられた、悪質な商法であるとの印象を一般人に与えるものであり、原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものであるというべきである。

(3)したがって、一般読者の注意と読み方を基準とすれぱ、被告らは、前記各記述部分(別紙1の1ないし3)を含む本件書籍の出版、発行により、原告の名誉を毀損したものというべきである。